HOKUSAIレビュー 絵描きから見ても良い作品だった【映画評】

映画・書評

前評判が非常に良い映画『HOKUSAI』を見てきました。

予告カットの勢いから楽しみにしていたので、行ってきた人の感想登場人物配置など一切予習せずにギリギリ滑り込みで見てきましたよ!

あー良かった。

すごくよかった。

公式サイトはコチラ

映画『HOKUSAI』公式サイト 気持ちを込めて公開中
九十年の生涯で描いた作品三万点以上。孤高の絵師”葛飾北斎”の生き様が、今初めて描かれるー。出演:柳楽優弥 & 田中泯 & 阿部寛 & 永山瑛太 & 玉木宏 ほか 監督:橋本一
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HOKUSAIのあらすじ

※画像引用元公式サイト

本作のあらすじは、江戸で知らぬ者はいない版元『蔦屋重三郎』が全く売れない絵描きであった若かりし日の北斎を発掘するところから始まります。

歌麿、写楽そして蔦重とそうそうたるメンバーに囲まれ、それまで自分勝手に絵を描くだけだった若い北斎が徐々に羽化を始めていく。

というストーリーになっています。

作品後半では晩年の北斎の生き様を描きどんな状況に陥っても絵に向き合い続ける『画狂老人』を描いていく。

といった内容です。

とにかく脚本がすごい。

熱い。

そして無駄な描写が無い。

役者が凄かった

主演

若北斎:柳楽優弥

老北斎:田中泯

蔦屋重三郎:阿部寛

喜多川歌麿:玉木宏

主要キャスト書いているとキリが無いのでちょっと割愛です。

登場人物で名前のある人はやはり全員存在感がありますよ。

特に蔦屋ね。

史実でもとくに有名な人物で、古い絵描きだったら名前知らない人はモグリと言われるほどの仕掛人です。

それぞれ役への入り込みが凄いんです。

この人はこういう人物像だったであろう。

というのがもう、伝わってくるというか、見ていて。

「絶対に居るわ、こういう人」と思わせる力が非常に強かったです。

ですので、主要キャストの存在感の濃い事濃い事。

本当にそこに江戸の町がありましたよね。

細かい演出描写に力が入っている

彫師と摺り師

私は漫画専攻の元々絵描き志望だったわけなんですが、その中でもびっくりしたのが彫師と摺り師の描写です。

彫りの打ち付け方や、摺りの紙の広げ方・馬簾の扱い等々。

相当な指導を入れたのか、本職を役者として呼んだのか。

ただの素人ではありえない程の速度と手の返し方をしていました。

当然手元しか映さないカットも存在していたのですが、造りとしてこちらに見せる分には十分に納得感のある作り込みでした。

恐らく本職の方を呼んだのかな?

余りに手元に対する体重移動がスムーズだったので。

うちは父が版画家なので見慣れていましたが、それでも「おお」と感心してしまいました。

版画に触れている世の中の人って、実はかなり少ないのです。

サウンドエフェクト

若北斎が水に沈むシーンや老北斎が強風に巻き込まれるシーンなど。

細かい音を存分に拾って、大きくすることによってそれ以外の音を失くしていく。

という手法を作中に何度か取っています。

作品への没入感を大きくするような音の仕掛けが多く、それによってより一層作品に深みが出ていると感じました。

これは映画館に行って良かったなと思う作りでした。

場面転換とカメラワーク

本作品は4章構成になっており、前半2つが若北斎後半が老北斎のシーンとなっています。

北斎がそれぞれ色々な影響を受け、または影響を与えていく内面葛藤を様々な場面描写で盛り上げていく表現が多いです。

自らの葛藤と戦うシーン。逆に自らの作品制作に没入するシーンなど、とにかくカメラワークを飽きさせない様に展開してくれます。

しかし、決して付け焼刃ではなく美しい色の演出と細かな演出で視聴側を引き込んでいきます。

スローカット

この作品は場面の強弱表現の為カメラスピードの増減というのを使ってきます。

要はスロー再生を駆使して、場面に臨場感と立体感を作り出しているのですが。

そのタイミングが気持ちよすぎる。

欲しい処でスローにして、サウンドを大きくしてくれて、視聴者が疲れてきたところで一気にスローを解くというカタルシスを狙っていきます。

この手法により作品全体が平たんにならずに、上品なジェットコースターに乗っている様な感覚で楽しむことができました。

北斎が雨を被るシーンというのが何度もあるのですが、中でも藍色を雨を一緒に被るシーンが印象的でした。

あれは役者の田中さんの演技力、カメラカットの力が非常に大きいですね。

何処の3秒間を切っても絵になる

全体的に絵面として、音の切り取りとして作品を見た場合どの三秒を切っても予告カットに使えそうなほどクオリティが高いです。

音が無くても、音があっても。

なんなら役者の表情だけでも。

絵になりすぎて映像カットの一つ一つに「どこも妥協してない」という制作側の意図が込められています。

なんかずっと褒めてますね。

ナレーションが無いのが良い

余計な説明がない。

これが本作が余計な要素をそぎ落としまくって洗練されたストーリー構成になっていると言える一端でしょう。

本作は作中での登場人物説明や相関図が一切ありません。

「解れ」

と言わんばかりの怒涛の様な、絵巻物をガラッと広げた様なストーリー展開を推し進めるのですが、そこにナレーションによる説明が一切ないのです。

ナレーションが無いことによって、役者情報すらなく劇場に足を運んだ私はしばらく登場人物の相関に頭を使う事を余儀なくされましたが、その分集中して作品を見ることができました。

これがこの作品を良く魅せる、ひいては作品全体の世界観を押し下げない事に一役買っていました。

HOKUSAI 評価

個人的には評価が凄まじく良い作品でした。

舞台装置としての有名人との創作エピソードやフィクション部分が多く、ご都合展開も多くありますが、それを黙らせるだけの表現力が役者・演出・脚本・メイク・指導その他すべてにあると確信できる作品です。

2時間という短い尺の中に、日本でも屈指の長生き有名人の生き様を詰めた作品なので、説明なし説明なし、察しろという進み方も多いですが、先に述べたとおりそれすら作品の色としてちゃんと残せるような完成度になっています。

北斎の生涯に関しては特に青年期の資料がほぼ無いらしく、どのような内容にしていくかが脚本によって分かれてしまう様ですが、オールスターという感じで良くまとまっていました。

途中、ここまで盛り上げてラストシーンをどうするのかとハラハラしましたが「こう来るか」と思わず劇場でうなずいてしまうほど力強いラストでした。

久々に手元に残しておくべきレベルの作品だなと思った作品。

惚れました。

2時間没頭した『何か』とか、熱い衝動を映像や音から感じたい人にはお勧めの作品です。

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